涸沼湖にて漁の最中にしじみと一緒に採取された化石を茨城県自然博物館に資料提供しました。以下詳細です。
茨城県自然博物館研究報告⇒p015-029_03
茨城県自然博物館研究報告
茨城県涸沼の完新統より産出したトゲノコギリガザミ化石
はじめに
茨城県中部で太平洋に注ぐ那珂川とその支流である 涸沼川流域には,後期更新世の低海水準期に形成され た開析谷を埋積する完新世の海成堆積物が分布する (斎藤,1959; 坂本,1975; 坂本ほか,1972).この完 新統は,那珂川および涸沼川下流部では著しく厚くな り,縄文海進期の溺れ谷を埋積し,また後期更新世の 低海水準期に形成された段丘を覆って広く分布してい
るとされる(坂本,1975). 近年,涸沼では,熱帯~亜熱帯海域を中心に分布す るノコギリガザミ属のカニである,アミメノコギリガ ザミScylla serrata(Forskål, 1775)やトゲノコギリガ ザミS. paramamosain Estampador,1949が捕獲されて いるが(投稿準備中),これに前後して,涸沼川下流 域ではコンクリ-ション化したノコギリガザミの鉗脚 や背甲の化石がシジミ漁の貝カゴにたびたび混入し, 複数の化石標本がミュージアムパーク茨城県自然博物館に提供された.混獲物には貝化石も多数含まれ,考 古遺物とみられる釣針や土器片も混入していたとのこ とであった.カニ化石に付着している母岩のシルトは 部分的に石灰質コンクリーション化して硬化している が,採集地点周辺の川底には完新世のシルトないし砂 質シルトが露出していることから,完新統の化石であ ることが強く示唆された. そこで,2016年7月に大涸沼漁業協同組合の協力 を得て,標本採集者の野口浩美氏の案内のもとで現地 調査を行い,川底から貝類化石を採集するとともに, 貝類およびノコギリガザミ化石の追加標本の提供も受 けた.また同氏からは,化石の採取地点が概ね3地点 に絞られることも教示された(図1,表1).しかしな がら,これらの化石は全て露頭から直接採集された資 料ではないため,厳密には産出層準および化石の年代 は推測によらざるを得ない.そのため,ノコギリガザ ミ化石の鉗脚の断片を使い,AMS法を使った放射性 炭素同位体による年代測定を行った. 小稿では,これら涸沼川底から得られた完新世ノコ ギリガザミ化石について産出層準や年代を検討し,そ の意義について述べる.
省略
謝 辞
本研究を進めるにあたり,有限会社涸沼川水産 代 表取締役 野口浩美氏には,ノコギリガザミや貝類な ど化石資料の大半を提供していただき,現地調査も御 案内いただくなど,多大なる御支援をいただいた.大 涸沼漁業協同組合には,現地調査の際に御協力いただ いた.また,水戸市在住の有田好喜氏には,トゲノコ ギリガザミ化石標本を御恵贈いただいた.千葉県立中 央博物館の駒井智幸博士には,ノコギリガザミ化石の 分類に関して有意義な御指摘をいただいた.上高津貝 塚ふるさと歴史の広場(土浦市)の黒澤春彦副館長に は,化石産出地点で得られた釣り針および土器片の年 代について御教示いただいた.千葉県立中央博物館資 料整理ボランティアの杉田雄二氏には,ノコギリガザ ミ化石のクリーニングに御尽力いただいた.また,国 立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合セ ンターの齋藤文紀首席研究員,納谷友規主任研究員, 兼子尚知主任研究員,茨城大学広域水圏環境科学教育 研究センターの加納光樹博士,土浦市教育委員会の石 川 功氏には文献や情報の収集でお世話になった.匿 名の査読者には,原稿の修正に有意義な御指摘をいた だいた.以上の方々にこの場を借りてお礼を申し上げ たい.
採取しましたノコギリガザミ化石です。